序章 事件の始まり【社畜もなかなか悪くない】

「そんな、困ります!先日納品したものを全て返品なんて…確か500万ほどご注文頂いていた、あの… 」

 おれが毎朝楽しみにしているコーヒーブレイクは、この始業開始前のクレームで、あっけなく終わった。

 500万分、全て返品? 聞いたことがない莫大な返品額だ。

 「どこの会社だ?」

 おれは、青ざめて電話を置いたまま硬直している事務の女の子 に向かって聞いた。

 「黒岩特殊板金さんです!昨日、安藤さんが初めて取引した…すごい 怒ってます!」

 ふいに、隣の席からガタッと立ち上がる音がした。出勤してきたおれの部下・安藤守だ。

 彼は、何が起きたのか分からないというように目を丸くしたまま、室内にいる10 名の社員からの視線を浴びていた。

 「安藤、聞いてたか?」

 おれの問いに、安藤はかすかに「はい」と答えるしかできなかった。

 無理もない。彼はこの黒岩特殊板金からの発注により、入社一年目にして営業成績が全営業社員中ダントツ1位 に躍り出るという偉業を達成していたのだ。数字が全てのいわゆる営業社畜にとって、営業成績は命の次に大切なもの。彼の喜びはいかばかりだったろうか。

 しかしそれが、もし返品となれば確実に最下位。それどころか前代未聞の大損失を出してしまうことにもなる。

 そしてその影響は彼だけに留まらず、上司であるおれにも責任問題として降りかかってくる。

「なんで…今なんだよ…なんで…」

 安藤の手がかすかに震えているのが見えた。彼のうらめしそうなつぶやきは、朝の爽やかな空気にはあまりにもふさわしくなかった。

第2章 部下は会社を辞めたがる【社畜もなかなか悪くない】

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1982年生まれ。 専門学校卒業後、シナリオライタースクールで約学ぶ。ラジオドラマで、著者の作品が採用され、番組化された。 その後、営業職に就くが、仕事の合間にボイスドラマ制作サークルを立ち上げ、脚本やディレクションを担当。 10本以上の作品を制作し、ポッドキャストで無料配信した作品は、ランキング1位獲得。全国的にも有名なサークルへ成長する。 その後、結婚を機にサークル活動は引退。 1人で作成できるweb小説を書き始め、コンクールで入賞。 その後、コピーライターのスクールに入り、webマーケティングを学ぶ。 現在はコピーライターとして週末起業。ブログ記事作成や、LP作成、ステップメール作成、補助金申請書類作成代行等を行う。 顧客は、整体院、書道教室、コンサルティング会社、オーダースーツ、工務店、結婚相談所、エステサロン、服の修繕業者など多数。 家族は妻と2歳の長男、セキセイインコ。 将来の夢は、ライティングで独立し、芸能プロダクションを設立すること。