終章 社畜もなかなか悪くない【社畜もなかなか悪くない】
「500万か…この規模の会社にとっちゃ、下手すりゃ資本金くらいの額だな」 おれたち三人は、黒岩社長と柏木氏に別れを告げ、事務所を出た。振り向くと、昨日は気付かなかったが、工場の煙突から煙がもくもくと出ている。 「まぁ、…
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「500万か…この規模の会社にとっちゃ、下手すりゃ資本金くらいの額だな」 おれたち三人は、黒岩社長と柏木氏に別れを告げ、事務所を出た。振り向くと、昨日は気付かなかったが、工場の煙突から煙がもくもくと出ている。 「まぁ、…
「そうか、やはり私の企画はうまくいったか。良かっただろう」 「ええ、先方の担当者も、このような企画はありがたいと申していました。私も売り上げを一気に伸ばすことができました。今月は落ち込んでいたので、本当に助かりました。あ…
「へぇ、後輩君と仲良くなれたかぁ」 その夜、また昨日と同じ店に由美を呼び出したおれは、今日あったことを話していた。 「由美の言ってくれたことがふっと頭に浮かんでさ。ああ、こういうことだったのかって思ったよ。やっぱ由美は…
会社に戻ると、伊澤支店長は外出していた、 そのまま直帰するらしい。社員の所在を記入するホワイトボードを見ると、伊澤支店長の欄には訪問先の企業名が書いてあったが、本当に訪問しているかどうか。そのまま早退しているとおれは見た…
やかましい蝉の声がそこかしこに響く中を、おれと安藤は歩いた。今日も35℃を越えているそうだ。真夏の暑さがジリジリと、不快にスーツにへばりつく。外回り営業は、こんな暑いときでもネクタイと上着が欠かせないから困ったものだ。早…
そして翌日、出勤した直後に勃発したのは、冒頭の「新規得意先・500万の注文ドタキャン事件」という訳だ。 おれは淹れたてのコーヒーを置き、放心状態の安藤に近づいた。 「安藤、テンション下げるのは後だ。まずは状況確認しろ」…
「これが社畜ってもんだぜ。ったく、何が楽しいんだか」 おれは一気にビールを飲み干す。 「今日は大変だったんだね。お疲れ様」 隣の由美が、すかさず瓶ビールをついでくれた。今日のたまった鬱憤は、由美の笑顔を拝することで、…
「すごいなぁ安藤は。500万だぞ、500万。やっぱり彼は採用して良かったよな。私の目に狂いはなかったよ」 おれの前で満足そうに話しているのは、伊澤支店長だ。彼は座り心地のいかにもよさげ なイスに深く腰を下ろして、満足そ…
この事件が起きる前にも、すでに見えないところでトラブルは発生していた。 前日に安藤は、おれに退職願いを提出していたのだ。 このタイミングでこの事件。安藤が悔しく思うのも無理はなかった。 おれはステンレスパイプを専門…
「そんな、困ります!先日納品したものを全て返品なんて…確か500万ほどご注文頂いていた、あの… 」 おれが毎朝楽しみにしているコーヒーブレイクは、この始業開始前のクレームで、あっけなく終わった。 500万分、全て返品…